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『経営者の条件』著者 P.F.ドラッカー 訳者 上田 惇生

発行所ダイヤモンド社 2006年11月9日 第1刷発行 2013年3月13日第2冊発行 P77

第3章どのような貢献ができるか
貢献へのコミットメント P81
 「どのような貢献ができているか」を自問しなければ、目標を低く設定するばかりでなく、間違った目標を設定する。何よりも自ら行うべき貢献を狭く設定する。
 なすべき貢献には、いくつかの種類がある。あらゆる組織が三つの種類における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取組み、人材の育成である。これらすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐りやがて死ぬ。したがって、この三つの領域における貢献をあらゆる仕事に組み込んでおかなければならない。もちろんそれぞれの重要度は組織によって、さらには一人ひとりの人によって大きく異なる。
 第一の領域である直接の成果については、はっきり誰にでもわかる。企業においては売上や利益など経営上の業績である。病院においては患者の治癒率である。もちろん直接的な成果と言っても、銀行の証券代行部のように誰にも明白なものばかりとは限らない。だが直接的な成果が何であるべきかが混乱している状態では成果は期待しえない。

(略…例として、直接的な成果が三つあり、板挟みになっているイギリスの国営航空会社の事例)

 直接的な成果は常に重要である。組織を活かす上でカロリーの役割を果たす。一方組織には価値への取組みが必要である。これは、ビタミンやミネラルの役割にあたる。組織は方向性をもたなければならない。さもなければ混乱、麻痺し、破壊される。
 第二の領域にある価値への取組みは、技術面でリーダーシップを獲得することである場合もあるし、シアーズ・ローバックのようにアメリカの一般家庭のために最も安く最も品質の良い財やサービスを見つけだす場合もある。もちろん価値への取組みもまた、直接的な成果と同じように明白なものばかりとは限らない。

(略…例として、根本的に相いれない二つの価値観に身を裂かれてきたアメリカ農務省の事例)

 第三の領域が人材の育成である。組織は個としての生身の人間の限界を乗り越える手段である。したがって、自ら存続させえない組織は失敗である。今日、明日のマネジメントにあたるべき人間を準備しなければならない。人的資源を更新していかなければならない。確実に高度化していかなければならない。
 そして次の世代は、現在の世代が刻苦と献身によって達成したものを当然のこととし、さらにその次の世代にとって当然となるべき新しい記録をつくっていかなければならない。
 ビジョンや能力や業績において、今日の水準を維持しているだけの組織は適応能力を失ったと言うべきである。人間社会において唯一確実なものは変化である。自らを変革できない組織は明日の変化に生き残ることはできない。
 貢献に焦点を合わせるということは人材を育成するということである。人は課された要求水準に適応する。貢献に照準を合わせる者はともに働くすべての人間の水準を高める。

(略……例として病院の看護師の「それは患者さんにとって一番良いことでしょうか」というビジョンが病院全体に浸透した例)

 貢献に焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。貢献に焦点を合わせることなくしては、やがて自らをごまかし、組織を壊し、ともに働く人たちを欺くことになる。

 上記について『実践するドラッカー利益とは何か』(上田惇生 監修P96)では下記のように解説しています。

 組織には、三つの領域の成果が必要です。「直接の成果」は、売上や利益、顧客数など一般に私たちが成果と呼んでいるものです。これらは短期的にも測定可能です。とりわけ本書の重要テーマである利益は、企業の標準的な評価尺度として不可欠の存在です。
「価値への取組み」と「人材育成」は長期的に取組み、継続的に評価していくものです。価値への取組みは、顧客価値の継続的な想像を意味しています。顧客が支持してくれる要因を突き止め、継続的にその価値を高めていくことです。組織における最も重要な成果です。

 「マネジメント・スコアカード」体系化の試み(淑徳大学 藤島秀紀氏i)という論文をネットで見つけました。ドラッカーがコンサルティングに考案したと言われる理論を体系化し、紹介しています。論文には「ドラッカーのマネジメント理論が、R.S.カプランとD.P.ノートンが開発したと言われるBSCに影響を与えていることが容易に想像されよう。事実、BSCの体系にはとくに『現代の経営』の中核概念が随所に取り入れられているのである」という記載があります。
 上田惇生氏訳の『現代の経営』に、CSR、バランスト・スコアカード、職務主義と役割主義の差異などの考え方もすでに記載されているという文面があったのを思い出しました。現代の経営が発刊されたのは1950年代。BSCが発表されたのは1992年です。
 中小企業が外部環境の変化に対応するためには、現状を分析、評価し業績をもたらす領域に経営資源を集中する取組みが必要。これまで取り組んできたBSCとドラッカーの教えをつなぎたいと考え『経営者に贈る5つの質問』4の「我々にとっての成果は何か」(P55)をテーマに読んでいます。今回は、ミッションとビジョンの関係、ドラッカーの「マネジメント・スコアカード」がBSC開発のもとになっていることを知りました。


iドラッカー学会理事、立命館アジア太平洋大学初代学長,立命館大学経済学部教授.京都 大学大学院修了(経済学博士).著書に『大学のイノベーション』(東信堂),『ドラッカー再発見』法律文化社,等

『非営利組織の経営』 著者 P.F.ドラッカー 訳者 上田 惇生

発行所ダイヤモンド社 2007年1月26日第1刷発行 2017年8月1日第14冊発行 P121

多様な関係者
 非営利組織といえども、成果をあげるにはプランが必要である。プランはミッションからスタートしなければいかなる成果もあげられない。ミッションが、あげるべき成果を想定する。
 したがって、非営利組織は、顧客は誰かを考え、そのそれぞれにとって成果はなんであるかを考えなければならない。
 非営利組織と企業との最大の違いは、非営利組織には多様な関係者がいるところにある。かつて、企業には関係者は1種類、顧客しかいなかった。当時は、従業員、コミュニティ、環境、株主さえ制約要件にすぎなかった。これが大きく変わったことが、今日のアメリカの経営者が世も末と思うようになった一因である。
 ところが、非営利組織にとって関係者はもともとたくさんいる。そのいずれもが拒否権を持っている。学校の校長は、教師、教育委員会、納税者、そして高校の場合には生徒まで満足させなければならない。これら五種類の顧客がみな、学校を違う角度から見ている。彼らのいずれもが、学校にとって欠くことのできない存在である。それぞれがそれぞれの目的をもっている。校長としては、クビにされたり、ストライキされたり、座り込まれたりすることのないよう、彼らのすべてを満足させなければならない。
 1960年頃まで、地域の病院は基本的に医師のために経営されていた。医師が最上位の関係者だった。医師が「入院させなさい」といえば逆らう者はいなかった。いまでは事態は変わった。医療費を負担する雇用主が、医療的にも経済的にも満足させられるべき関係者として登場した。病院の収入の五分の二が老人医療費となったために、連邦政府が病院の利害関係者として登場した。会員制健康保険組合まで利害関係者になった。病院の職員も発言権を増大させた。より多くを要求するようになったというよりも、彼らの多くが専門性を高めたためだった。
 最近協会の多くが信者を増やし、活動を活発化させているのは、青少年、新婚、成人のそれぞれのマーケットが別のニーズを持っていることを認識し、その認識を活動に反映させるようになったからである。
それらの境界は、信者のグループごとに目標を設定し、それぞれに担当者を配置している。

 上記について『実践するドラッカー利益とは何か』(上田惇生監修P94)では下記のように解説しています。

 多くの組織は、ミッションを持っています。それは企業理念や経営理念などとして表現されています。また、経営計画をはじめとした各種プランも多くの場合持っています。しかし、売上や利益とは別に「成果」を定義している企業は億ありません。ドラッカー教授が「成果が主役である」としたにもかかわらずです。
 経営計画を立案してもいわゆる“絵に描いた餅”となってしまうのは、成果を定義していない点に多くの一端があると考えられます。あるいは、成果の形を利益のみで定義しているケースが多いからではないでしょうか。
(中略)
 ミッションと計画を結ぶ重要な役割を果たす「成果」を明確にすることが、ミッションという良き意図を計画として具体化し、実行たらしめる唯一の方法です。マネジメントの主役たる「成果」に対する組織全体の意識を高めて、結果を手にしましょう。

 そもそもミッションには「使命」や「役割」。「任務」などの意味があり、ビジネスシーンにおいては、「会社が成し遂げたい目標」や「会社が果たすべき使命」。「社会における存在意義」のことを指します。という説明がほとんどです。
 会社が誰に対して果たす使命なのでしょうか?知的資産経営で、「企業が持続的な利益を続けていくためには、その企業の取組みを顧客、取引先、従業員、金融機関、株主などのステークホルダーに有益な情報を開示する必要がある」と述べているのを思いだしました。2冊の本を読み、ミッションとは「会社がステークホルダーに対して果たすべき役割」と理解しました。その「成果」が利益につながらなければ企業は持続的な発展を続けることができない、それがミッションからスタートするという意味ではないでしょうか。

『断絶の時代』 著者 P.F.ドラッカー 訳者 上田 惇生

ダイヤモンド社発行 2007年7月12日 第1刷発行 2019年1月24日第5刷発行 P214

(成果が主人公)
 今日の組織は、集中することによってのみ成果を上げうる。組織とそのマネジメントの力の基盤となりうるものは一つしかない。成果である。成果をあげることが、組織にとって唯一の存在理由である。組織が権限を持ち権力を振るうことを許される理由である。このことは、組織それぞれが自らの目的が何であるかを知らなければならないことを意味する。
 われわれは、組織それぞれの能力を測定し、あるいは少なくとも評価することができなければならない。また、組織が自らの役割に集中すべきことを要求しなければならない。これらを超えるものはすべて越権である。
 多元社会iの組織にとっては、それぞれの目的に集中することが正統性の鍵となる。それぞれの組織にとって、何が自らの目的であるかについては、いろいろな考えがありうるし、あって当然である。しかもそれは、状況、ニーズ、価値観、技術の変化によって変わっていく。同じ国の別の大学、同じ産業の別の企業、同じ医療にかかわる別の病院など、同じ世界に属していても、組織が違えば別のものであっても不思議はない。
 しかし、いずれの組織も自らの目的を規定するほど強くなる。自らの成果を評価する尺度と測定の方法を具体化できるほどより大きな成果をあげる。自らの力の基盤を成果による正統性に絞るほど正当な存在となる。こうして、「彼らの実りによって彼らを知る」ことが、これからの多元社会の基本原理になる。

 上記について先週紹介した『実践するドラッカー利益とは何か』P92では下記のように解説しています。

 利益なくして組織の存在はありえません。利益の源泉は顧客です。したがって、顧客の存在なくして組織の存在はありえません。「事業の目的は顧客の創造である」とドラッカー教授が述べた理由でもあります。

 中小企業庁の事業で、早期経営改善計画策定支援事業(通称:ポストコロナ持続的発展計画事業)がスタートしています。認定経営革新等支援機関として、計画の作成を支援する機会が増えてきました。計画は黒字化のストーリーをつくることから始めましょう。


i 多元社会とはつまり、企業だけでなく、政府機関、労働組合、学校、病院など様々な組織が一つの社会に含まれていることを意味します。これは企業の中でも同じことが言えます。企業の中にはさまざまな部署が存在しています。営業部門だけでなく、経理部、総務部、システム開発部などなど。現代は多元社会です。だから、企業全体、社会全体について知る必要があるのです。
参照 https://note.com/parikan/n/n85deecbf944c

『実践するドラッカー 利益とはなにか』上田 惇生 監修 佐藤 等 編集

発行ダイヤモンド社 2013年3月27日第1刷発行 P89

われわれにとっての成果はなにか
 組織の成果は、一人ひとりの人間の生活、人生、環境、健康、期待、能力の変化という組織の外の世界に表れる。組織がミッションを実現するには、あげるべき成果を明らかにして資源を集中しなければならない
『経営者に贈る5つの質問』……P55
P92 成果は組織とマネジメントの基盤である
 組織とそのマネジメントの力の基盤となりうるものは一つしかない。成果である。成果を上げることが、組織にとって唯一の存在理由である。(中略)このことは、組織それぞれが自らの目的が何であり、成果が何であるかを知らなければならないことを意味する。
『断絶の時代』……P214
P94 成果の定義① ミッションからスタートする
 ミッションからスタートしなければいかなる成果もあげられない。ミッションがあげるべき成果を想定する。
『非営利組織の経営』……P121
P96 成果の定義② 三つの領域で定義する
 あらゆる組織が三つの領域における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取組み、人材の育成である。これらすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐りやがて死ぬ。
『経営者の条件』……P81
P98 成果の定義③ 効率より成果が先である
 最高の事業であっても効率が悪ければ潰れる。しかし間違った事業であっては、いかに効率が良くとも生き残ることはできない。馬車用の鞭(むち)のメーカーであったのでは、効率のいかんにかかわらず存続はできない。成果のあがる事業であることが繁栄の前提である。効率はその後の条件である。効率とは仕事の仕方であり、成果とは仕事の適切さである。
『マネジメント(上)』……P52

 私の趣味の一つは映画を見ること、気に入った映画は何度も見ます(笑)。ネットフリックス、「もう一度みる」を時々利用します。繰り返してみることで気づかなかったことを発見できます。
 書きたかったのは映画の話ではなく、ドラッカーの本です。以前も書きましたが私は上田惇生氏iの著書を主に読んでいます。繰り返し読むことで理解度が深まります。今、取り組んでいる事はこの本から始めました。PDCAというサイクルを唯一の経営プロセスと考えることは危険です。常にミッションを確認し、必要とあればミッションを見直し、新たな基礎をえて計画を立てていかなければなりません(P246)。もう一度原点に返って復習します。


i1938年11月9日―2019年1月10日は日本の経営学者。モノづくり大学名誉教授、立命館大学客員教授、ドラッカー学会代表。Wikipedia参照

『仕事はカネじゃない!』ケビン&ジャッキー・フライバーグ 著 小幡 輝夫 訳

日経BP社発行 2004年4月26日 第1刷発行 P124

経営戦略を共有する
 経営者としての自覚を育てるには、経営者と従業員の間に誠意がなければならない。経営者であれば重大な問題に直面したとき、自信をもって対処することを問われる。そんな場合、経営者の立場を自覚する者は常識を働かせて判断を下す。もちろん全社員が経営戦略を熟知していれば、適切な判断を下しやすくなるだろう。経営戦略を従業員に知らせるのは、まさに適切な判断を下してもらうためなのだ。それを確実にする一つの方法として、何か問題に直面したとき、どういう選択肢を選ぶか質問してみるとよい。会社に独自性を持たせるには何をすべきか、考えてもらうのもいいだろう。当然のことだが選択肢を選ぶ場合、会社の目標や現状、存在意義について理解していれば、適切な判断を下しやすくなる。
 サウスウエスト航空は、この問題についてよい見本を提供してくれる。従業員が指定席を設けるよう提案したときコリーン・パレットは、それは会社の基本戦略に沿ったものかと聞き返した。指定席を設けるのは簡単だが、そうした場合、待機時間が長くなり、定時発着の実績に支障をきたさないだろうか。さらに運賃も10ドルから15ドル値上げすることになり、顧客にとっても望ましくないはずだ。ガッツのあるコリーン・パレットは、会社員に自社の経営戦略を再確認させるチャンスを逃がさなかった。彼女はこの問題について従業員と率直に話し合いサウスウエスト航空の経営戦略を説いたのである。経営者の立場で行動するには、経営戦略を熟知していなければならないからだ。
 パレットは従業員の自主性を奨励すると同時に、従業員が適切な判断をしているかどうか点検する必要があることも心得ている。経営戦略に基づく従業員の自主判断の範囲を想定しているの、サウスウエスト航空の目標やビジョン、価値観なのである。自主判断の範囲が規定されているといっても、それは創造性の制限や無秩序とは全く関係ない。サウスウエスト航空の目標は確かに、ウォルマートと違っている。そして、その違いが重要であることをサウスウエスト航空は自覚いているのだ。 i経営者の立場を自覚する従業員は、次のような質問に答えることができる。わが社はどんな事業に取組んでいるか。我が社は何のために存在いているのか。我が社は他社どう違っているのか。経営戦略を示すことは、従業員の活力抑制はつながらない。それによって、従業員は自主的に行動できるようになるのだ。

 この本は、書棚から探しました。「経営者としての自覚を育てるには、経営者と従業員の間に誠意がなければならない」…奥の深い言葉です。後継者に人事と組織を渡した私にできることはOJT。「お客様の期待に応える取組み」後方支援に徹し、従業員に「仕事を通じて自主的になってもらうこと」に徹します。


iサウスウエスト航空の創業者ハーブ・ケレハーの法律事務所で役員秘書を勤め、社長兼CEOになった人。

『経営理念の教科書』新 將命 著

㈱日本実業出版社発行 2020年11月1日 P199 第6章 生きた経営理念の使い方


創った理念は使ってこそ
 理解度とは行動の質と量に表れるものだ
 経営理念の理解度とは全社員の行動に表れる。行動に表れるとは、理念を道具として日常業務に使っているということだ。いささか口が酸っぱくなる気がするが、経営理念は使ってナンボである。
 とはいえ改めて経営理念をつくるとなると、それはそれで大変な知力、体力を必要とする。その結晶である経営理念を眺めていると、そこには努力と苦労のにおいがする。
 額縁に入って、社長室の壁の高いところに掲げられた経営理念をみると、社長の気持ちは変わってくる。
 しかし、壁に掲げただけでは何の役にも立たない、単なる掛け声である。
 一つの理念を創り上げるのは、確かに大きな作業だ。だが、創ることそれ自体はプロセスであり、手段にすぎない。
 たとえば、一つの製品を仕上げるには、必ずそれ相応の苦労がある、時間もかかる。
 開発から完成まで一気呵成に一直線という製品はあり得ない。途中に山もあり、谷もある。試行錯誤を繰り返しながら、ときには数多くの挫折も味わい、完成までこぎつけるものだ。だからこそ、完成したときの喜びがひとしおなのである。

●使われない製品は存在しないのと同じ
 しかし、製品はつくって終わりではない。使ってもらわないことには開発した意味がない。
 ソニーが創業から間もない頃に、日本で初めてのテープレコーダーをつくった。まだ社名を東京通信工業としていた時代である。
 日本のオープンリール型のテープレコーダーは、創業者、井深大氏の悲願だった。それまでトースターや電気釜をつくっていた東通工(東京通信工業)がはじめてつくった音響製品である。
 日本初のテープレコーダーは、日本の産業史の中でも画期的な製品だ。
 だが、井深大氏は、テープレコーダーの完成だけでは喜ばなかった。製品は使われなければ意味がない。
 販路を徹底的に追求した。当時の放送局はまだ数が少ない。一般に売るには価格が高い。そこで井深氏は学校に販路を求めた。
 学校なら視聴覚教育用にテープレコーダーを使う。そして学校の数は放送局よりも圧倒的に多い。

●技術も理念も使われるためにある
 かつて、ソニーの役員を務める人から、「ソニーは技術の会社と言われているが実はマーケティングがソニーの強みだったのです」と聞いたことがある。
 その役員は、井深氏のつくった日本で最初のテープレコーダーに感銘を受け、まだ中小企業だった東通工に入社した人だ。
 ソニーはその後も独自の製品を開発し続けてきたが、次第に技術のみ社内での価値が偏り始めたように見える。
 製品も技術も使われてナンボ、つくっただけでは記録に残るだけで記憶には残らない。70数年を経て井深氏のDNAは薄らいだのだろうか。
 技術には二つある。使われる技術と使われない技術だ。
 使われない技術にも優れたものは多い。現在、航空機の材料にも使われる炭素繊維は、源流を辿るとエジソンの発明した電燈に行き着く。
 炭素繊維は、今日でこそ脚光を浴びているが、20年ほど前には釣り竿、ゴルフクラブにしか使われていなかった。
 技術には用途開発が必要なのである。技術がどんなに優れていても、実際に使われなければ冬眠状態が続いてしまう。
 一方、経営理念も同じことで使われるために創られる。
 有言実行(Say if and live it)がなければ、宝の持ち腐れに等しい。
 本来、使うために創られた経営理念が、できたとたんに「記念品」と化しては、何のために創ったのかわからない。「仏作って魂入れず」である。
 カネや時間や技術と同じことで、経営理念もまた使ってこそはじめて本当の意味をもつのだ。

 著者は、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどエクセレントカンパニー6社の社長として活躍、現在コンサルタントをしています。「経営理念を実践する」大事なことですが、なかなかできていません。経営理念を実践するための行動基準をつくり、朝礼で斉唱していますがわが社は「実践できている」と言えるか疑問でした。昨年、幹部合宿で経営理念に基づく基本方針(商品、お客様、社員、会社、地域社会)を話し合いました。そして決まった今年の方針は「お客様の期待に応え、お客様と共に成長しょう!」です。経営理念を実践するための「わが社ならではのやり方」考えませんか。

『福沢諭吉と渋沢栄一』城島 明彦 著

発行者 小澤 源太郎 責任編集 株式会社プライム湧光 発行所 株式会社青木出版社 2020年8月15日第1刷 P71


「幕府がオランダから軍艦を購入し、その船に俊才を乗せて海外に送り出して海外事情を調査させてはどうかと川路聖謨(かわじとしあきら)に話したところ、賛成し、その計画を進めることになり、門人の中に適材の若者はいないかと尋ねられたので、数名が浮かんだ。その候補者の中に君の名前も入っている」(拙著「吉田松陰「留魂録」より流用」

(中略)

 福沢と松陰を比べてみると、松陰は辞世の「かくすればかくなるものと知りながら已むに已まれぬ大和魂」から推測できるように、情熱だけで渡航に賭け、失敗したのに対し、福沢は計画を練り、縁故を有効に活かすなど綿密さで勝り、成功したという大きな違いがあるが、もし、松陰が朗報が届くのを待っていたら、咸臨丸の船上で福沢諭吉と出会い「学問」という共通のテーマで意気投合し、日本の歴史が変わっていた可能性が高い。
 一方、渋沢は、「世の中のことはかくすれば必ずかくなるものである、という因果関係があるのだから、人が世の中に処していくのには、形勢を観察して気長に時期の到来を待てということも、決して忘れてはならない」と「雨夜譚」に記している。
 松陰が密航に失敗したのは二十五歳、福沢が咸臨丸で渡航したのは二十七歳、そして渋沢がパリ万博へ出向いたのは二十八歳。いずれも青年期の出来事である。的を射た譬(たと)えではないかもしれないが、松陰は「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」の信長型、福沢は「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」の秀吉型、渋沢は「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」の家康型と言えるかもしれない。

 この本はNHKプレミアムの「その時歴史が動いた」で放送した「福沢諭吉」をみて「渋沢栄一」と同じ世代の人だったことを知り、興味を持ち読み始めました。まだ最後まで読み終えていませんが、是非紹介したくて書きました。
 新婚旅行で行った萩、結婚40周年記念で「松下村塾」と松陰神社を訪れ買ってきた書「至誠……」が神棚にあります。吉田松陰は1852年(嘉永5年)弘前市に来ています(処刑されたのは1859年)。本のP18に●福沢諭吉・渋沢栄一大づかみ対比年譜があり、改めて見ると同じころ、1848年福沢諭吉は漢学を習い始め、1846年渋沢栄一は尾高惇忠の塾で論語を習い始めるとあります。
 知りたかったこと、調べたかったことを書いてある本にめぐりあうことができました。

『SWOT分析を活用した根拠ある経営計画書事例集』嶋田利広・篠崎啓嗣・松本一郎・田中博之・大山俊郎著

株式会社マネジメント社発行 2020年2月4日第1刷発行 2020年7月25日第2刷発行 P16

(2)「非財務項目」中心のSWOT分析
 ①SWOT分析でわかること
 SWOT分析という手法は、数十年前にアメリカでその理論の原型ができたもので、すでに日本全国で「経営戦略立案ツール」として知られ、ある程度普及している手法である。
□SWOT分析とは—

 そして、これら4つの要素を掛け合わせることを「クロス」分析という。
「可能性あるニッチ市場やニッチニーズである機会」に、そこに使える「物理的な経営資源やノウハウ、経験などの強み」を掛け合わせて、その企業独自の積極的に攻める・投資する戦略をあぶりだすことである。
 このSWOT分析(クロス分析を含む)をすることで下記内容の実現や具体的な戦略が見えてくる。
〇自社独自の戦略、今後生き残りビジョンが見える
〇説教区的にヒト・モノ・カネを配分する戦略、止める・減らす戦略が見えてくる
〇多岐にわたった経営戦略の取組みの優先順位がわかる
〇ニッチ市場や自社の使えそうな経営資源(強み)が何か、そのイメージがわくので行動に移しやすい
〇新商品開発の際、そのコンセプトをつくる時、「機会」×「強み」が参考になる
〇重点顧客・重点チャネルを決める、戦略営業を仕掛ける時、その作戦づくりのもとになる
〇新規事業へ参入する際の、進出すべきか否かの可否判断の根拠となる

 「この本の初版が発行されたのはコロンナショックの直前あるいは予兆の時期。第2刷は、「Withコロナ時代」コロナショックを乗り切るためには「ニッチ市場」と自社の強みを見極め「事業の選択と集中」を経営計画に反映させることが重要であることを述べ、具体的な取り組み方とそのプロセスを記載しています。また、根拠ある経営計画書として、中古自動車販売業、温泉ホテル業、飲食業、飲食業(居酒屋チェーン)、建設業専門運送業(新規事業)、建設リース業、機械加工業、金属加工業が事例で示されています。
会計事務所、コンサルタント、金融機関担当者にむけて書かれた本ですが経営者にもお薦めの本です。

『「知る」と「できる」は大違い!マーケティングの本質を極める3ステップ』 家弓 正彦 著

株式会社シナプス発行 2019年4月30日 第1版発行 P13~14


 上の図2-1は、基本的なマーケティング戦略策定のプロセス全体を示しています。ここで重要なのはそのプロセスが、大きく分けて三つのステップから成り立っていることです。
 最初のステップは、自社のビジネスをとりまく環境を的確に把握し、分析する「環境分析」、次のステップは、攻略すべきターゲット顧客と自社のポジショニングを決定する「基本戦略構築」、そして最後のステップは、基本戦略を具現化するための「具体的施策設計」です。
 このようにマーケティング戦略構築の流れはとてもシンプルで、わかりやすいものです。しかし、現実のビジネスとなるとこの3ステッが守られていないことが多いようです。具体的施策設計にすぐ飛びついてしまうという誘惑にかられるのです。
 誰もが「こんな商品を出せばヒットするだろう」とか「こんな販促策を打てば、もっと売れるに違いない」といったアクションが頭の中に浮かぶことがあります。本来であれば、環境分析を行い、基本戦略を立てることが先なのですが、具体策は目に見えるわかりやすいものであり、直接結果をもたらすものなので、ついアクションを考えたくなるのです。
 しかし、目的(戦略)があいまいなままアクションに飛びつくことは、ムダ打ちが増え、効率が悪くなるものです。施策を考える前に、その目的となる戦略を明らかにすることが必須です。そして、その戦略を構築するプロセスとして環境分析を行わねばなりません。まずは定石どおりに3ステップの手順に従うことが重要です。
 また、この手順で策定されたマーケティング戦略は、一度立案したらそれで終わりということではなく、施策を実行した結果を踏まえて、環境分析を修正する、戦略を再構築する、施策を練り直すといった取り組みが必要となります。このようにマーケティング戦略は実行を通じて常に磨かれ、より良いものに改善されていくのです。
 みなさんは、これからご自身のビジネスのマーケティング戦略構築に取り組むことになります。そのプロセスの中で、今自分がどのステップにいて、ここでは何を考えなければならないのかを意識しておくことが重要です。道に迷った時には、このオーバービューに立ち返って、自分の立ち位置を確認してください。

 マーケティングと製品市場分析(PMマトリクス)の違い…勉強不足で答えを出せなかったのですが、①日本経営会計専門家学会の研究部会で学んだ市場分析と貢献度、②先日紹介した本にあった変革の三段階、①と②の組み合わせで気づきがありました。加えて、青山先生が提案されている③BIツール…マーケティングに100%の成功はあり得ませんが、①②③で成功する根拠をしっかり整えることによりデジタルとリアルの距離を近づけることができるのではないでしょうか。著者の家弓正彦氏のミーティングファシリテーションを受講したことがあります。BIツールで分析し仮説を作り→実行した営業活動をデータで確認(検証)→立ち位置を確認し次なる仮説を立てる…そういう会議を支援することで勉強不足が解決できると気づきました。


『顧客減少時代のマーケティング』小阪裕司著
BIツールとは、企業が持つ様々なデータを分析し「見える化」するツール
デジタルを活用して行うデータ分析
データ分析で立てた仮説と現実の商品・市場の動き

『「顧客消滅」時代のマーケティング』小阪 裕司 著

PHPビジネス新書発行 2021年3月11日第1版第1刷 2021年5月25日第1版第4刷発行 P204


□「不要不急」だが「大事なもの」
 2020年12月26日付の朝日新聞に、京都大学名誉教授・佐伯啓恩氏が、1年を振り返って紀行されていた。氏は、この年よく使われた言葉「不要不急」と反対語「必要火急」を題材に論じる中で、次のように述べた。「(このコロナ禍で)我々は、「必要なもの」と「不要なもの」の間に、実は「大事なもの」があることを知った」。
 氏はその「大事なもの」を、「信頼できる人間関係、安心できる場所、地域の生活空間、なじみの店、医療や介護の体制、公共交通、大切な書物や音楽、安心できる街路、四季の風景、澄んだ大気、大切な思い出」と列記していたが、2020年、ワクワク系の現場には、そういうものがあった。
 業種を問わず、BtoB、BtoCを問わず、2020年3月以降共通して見られたこと。それは「不要不急」なビジネスを営む方が多いワクワク系の店舗や会社が、強く支持されていく姿だった。
 人が商品やサービスを買い、店を利用するのは、必ずしも「必要火急」だからではない。人としてより良く生きるためのエネルギーを得るためだ。そして生きることが決して楽ではないこの社会において、「生きるエネルギー」を提供するすべてのひとや企業は、深く感謝され、ビジネスとしての恩恵も受けるだろう。
 2020年は、人が「大事なもの」に気づいた年だったと佐伯氏は言うが、まさにそうだった。そしてその気づきは一過性のものでなく、元にも戻らない。コロナが連れてきたものは未来だったからだ。
 だからあなたのこれからは良いものになる。新しい社会にとって「大事なもの」が何かが明確になり、道は開けたからだ。
 あとはその道を、ともに歩む多くの仲間の息吹を感じながら、あなたも歩んでいけばいいのである。

 この本は、未来会計コンサルティング(神奈川)が実施した講演会で知りました。講師の日下智晴氏は金融庁地域金融企画室長。テーマは「ポスト金融検査マニュアル時代の積極的企業支援へのパラダイムシフト」。金融検査マニュアルを廃止し、「金融機関は「企業の事業内容や成長可能性等を適切に評価(事業性評価)し、それを踏まえた解決策を検討・提案し、必要な支持等をおこなっていくことが必要である」という金融庁モニタリング基本方針を示した方です。 講演の中で紹介いただきました。
 著者の小坂裕司氏はオラクルひと・しくみ研究所代表。成功事例として(本の帯から転載)以下のことが具体的に記載してあります。
  ★営業自粛でも前年比150%を達成したレストラン
  ★「深夜営業NG」でも売り上げを維持したバー
  ★取引先五が次々とファンになるBtoB企業 etc
 顧客消滅時代には、自社の価値観をしっかりと発信し、ファンに共鳴してもらうファンダム作りが重要になる。今、デジタルに偏りすぎている。リアルは「安心、元気づけられる、命とつながっている」という良さがある。誰かにとって価値あるものを届け、対価をもらうことができる。生きるために価値あるもの なくならないはず、それが今危うい……YouTubeでも厚く語っています。
https://kosakayuji.com/202102book.php
ファンダムを作り、顧客との「絆」の深め方を学びました。ワクワクしながら一気に読むことができました。お勧めです!