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「戦略マップ」ロバート・S・キャプラン/デビット・P・ノートン(3)

(監訳:桜井通晴、伊藤和憲、長谷川恵一)2005年12月14日発行

418RYK5G3CL._SL500_AA300_図表2-10は低コスト航空会社も「迅速な地上での折り返し」という戦略テーマに関するアクション・プランとビジネスケースを示している。この戦略テーマは、トータル・コスト低減という顧客への価値提案にとっての核心である。この戦略テーマは、顧客の満足度を増加させ、将来の収益増大につながる定刻の出発と到着に寄与しうるであろう。この戦略テーマはまた、競合する航空会社よりも少ない機体と搭乗員で営業することでこの航空会社の原価低減を可能にし、資本コストを上回る利益とROIをえながらも低価格に敏感な顧客をひきつける安い料金を提供するようにした。
~中略~
このように、図表2-10は、迅速な地上での折り返しという戦略テーマが、無形の資産および戦略実施項目の完全な*ケイパビリティをどのように戦略に方向づけているかを示している。

*ケイパビリティとは、企業が全体として持つ組織的な能力。あるいはそのきぎょうが得意とする組織的な能力。例としては、スピード、効率性、高品質等が挙げられる。(kotobank参照)

「尺度、目標値。および実施項目が戦略を行動に変える」(P85)

 

“ある航空会社”とはサウスウエスト航空のことであり、図表2-10とはサウスウエスト航空の戦略を
①戦略マップに描き戦略目標を示し
②上記①の戦略目標にBSCという区分で、尺度と目標値を記載し
③上記②のBSCをアクション・プランという区分で、実施項目と予算を具体的にしている
この図表を見る限り、戦略テーマは全社の方針であり、その施策を表現している「バランスト・スコアカード」は、4つの視点にセグメントした上で、戦略マップ、BSC、アクション・プランと整理されています。つまり、“戦略テーマ”は、戦略マップの上位概念となっていると考えられます。

サウスウエスト航空を「ある航空会社」と表現しているのはなぜか?
戦略テーマが戦略マップの上位概念になったり、下位概念になったりしているのはなぜか?
経営の仕組みを理解したうえで考えると、どっちでもいいことなのですが、BSCで経営を理解しようと取り組んだ私は、「もう少しわかりやすく書いて欲しい」と叫びたくなりました。

経営計画を策定する手法として、
①現状をベースにあるべき姿を考える
②あるべき姿を考え、現状とのGAPを埋める
という二つのアプローチがあります。図表2-10は①の手法でとらえ、サウスウエスト航空の戦略を「バランスト・スコアカード」として表現しているのではないでしょうか?

「戦略マップ」ロバート・S・キャプラン/デビット・P・ノートン(2)

(監訳:桜井通晴、伊藤和憲、長谷川恵一)2005年12月14日発行

418RYK5G3CL._SL500_AA300_「戦略バランスト・スカカード」(原書P78、訳書P111)によれば、戦略テーマとは。「戦略をいくつかの一般的なカテゴリーにセグメン化」したものであるという。以下では、いくつかの発展プロセスをまとめる。キャプランとノートンは、1996年の第1冊目の著書「バランス・スコアカード」で、財務の視点として、4つの戦略テーマを取り上げている。すなわち収益増大、生産性向上と原価低減、資産利用の効率化、リスク低減である。彼らの2001年の第2冊目の著書「戦略バランスト・スコアカード」では、財務の視点だけはなく、4つの視点すべてに戦略テーマを設定するモービルのケースを紹介している。この価値提案は*訳注5に示した3つの価値提案である。さらに2004年の3冊目の著書である本書は、内部プロセスの視点における戦略テーマとして4つの戦略テーマを掘り下げて検討している。実際に、戦略マップを構築するには内部プロセスの視点で戦略テーマを設定し、これらを顧客の視点、さらに財務の視点に関連付けるとともに、内部プロセスの視点を学習と成長の視点にも関連づけなければならない。

*訳注5:トレイシーとウイアーセーマにとれば、価値提案は「卓越した業務」「製品リーダーシップ」「顧客関係重視」からなるという・・・詳細略(P31)

(戦略テーマについて(「戦略マップ」P37脚注)より)

 

上記の解説「戦略テーマ」を読むと。「戦略テーマ」は「戦略マップ」の上位概念ではなく、戦略マップを視点というセグメントにカテゴリー化し、そのセグメントの戦略でテーマにしている。よって、「戦略テーマ」は「戦略マップ」の下位概念と位置づけています。

ロバート・S・キャプランの論文「戦略テーマ」BSCの新ツール

ハーバードビジネスレビュー(2006年7月)

ハーバードビジネスレビューこれまでバランス・スコアカードは、主に部門の業績改善に用いられてきたが、新たに「戦略テーマ」というツールを活用することで、全社的なシナジーを生み出し、企業価値を高める仕組みができあがる。

キャプラン教授が2005年12月に「戦略マップ」という本を書いた後の論文です。バランス・スコアカードは主に「部門の業績改善」として使われてきたのです。それにもかかわらず、私は最初から「戦略実行のツール」と考え学んできました。そこに認識のずれがあったのです。バランス・スコアカードに関する本に、「バランス・スコアカードは部分最適から全体最適を目指す」という表現が使われています。部分とは部門であり、全体とは全社を意味していたのです。

「戦略実行」は部門の業績改善が全社の業績改善にどのようにつながっているのかという検証に始まり、「戦略マップ」という言葉が生まれたのではないでしょうか。この論文に出てきた「戦略テーマ」は、部分最適と全体最適のつながりを表現するための言葉であり、経営計画をつくる段階では「方針」と考えます。私達は、全体最適を前提に経営計画を作成しますが、キャプラン教授は戦略実行の状況を検証し全体最適を考え、「戦略マップ」→「戦略テーマ」という表現を使っているのではないでしょうか。

アメリカでは、株主にたいして四半期ごとの業績をいかに示すことができるか、ということが大事であり、私達が目指しているように、中期の戦略を考え、それを単年度につなげて実行する流れを経営計画として策定する、という概念がないのではないか・・・という気がします。キャプランの本に、経営計画という言葉はでてきません。