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『渋沢栄一とドラッカー』國定 克則 著

株式会社KADOKAWA発行 2020.11.20初版 P24


⑷渋沢栄一とドラッカーはなぜ未来を創造できたのか
 渋沢栄一は西洋のカンパニーという仕組みを使って、当時の日本になかった新しい事業を次々に生み出し社会的イノベーションを起こした。一方ドラッカーは、「マネジメント」という言葉さえあまり使われていなかった時代に、人類史上初めてマネジメントという分野を体系化した。二人はなぜ新しい未来を創造できたのだろうか。
 私たちは渋沢栄一とドラッカーから何を学ぶことができるのだろうか。実は、渋沢栄一とドラッカーはよく似ている。考え方がよく似ているだけでなく、生き方までよく似ている。二人の共通点をとおして未来創造の本質について考えてみたい。
 未来創造という観点で二人を眺めると、まず浮かびあがってくるのは「高く広い視点で時代が要請するものを見極めていた」ということである。
 渋沢には常に天下国家という意識があった。また、運よく西洋の地を訪れ、当時の西洋の様子を自分の目で見ていた。そして日本は、西洋による植民地時代を避けるために富国強兵を旗印とし、産業の育成が急務だった。渋沢は、明治という時代が求めるありとあらゆる事業を設立していった。
 渋沢の事業の設立の順番も理にかなっている。まず、経済の血流といわれる銀行を設立した。それは、事業に融資するという日本で初めての銀行だった。ちなみに「銀行」という言葉を作ったのも渋沢である。次に製紙会社を設立している。明治になって税は紙幣で納めることになった。また、全国に義務教育の学校が設立され教科書が必要になった。明治初期という時代は大量の紙が必要になった時代だったのだ。
 ドラッカーも同じである。ドラッカーは常に社会全体という視点でものを考えていた。ドラッカーがなぜマネジメントの研究を始めたのか。そこには、社会の大きな変化が影響していた。
 19世紀まで人類の大半は、靴職人とか農民とかといったように個人で働いていた。それが20世紀には、人類の大半が組織で働くようになった。そういう社会である以上、組織のマネジメントがうまく機能しなければ人類は幸せになれない。そういう時代の要請が、彼をマネジメント研究に向かわせたのだ。
 ちなみに、ドラッカーの心の根底にあるのは「人間の幸せ」である。ドラッカーは「人間はどうすれば幸せになれるか」、特に「仕事を通して人間はどうすれば幸せになれるか」を考え続けた人だった。
 渋沢栄一とドラッカーが変化の時代に大きな成果をあげたのは、高く広い視点で時代が求めているものを見極め、時代が求めているものに彼らの時間を使ったからなのだ。
 渋沢栄一とドラッカーに共通する2点目は、「本質を見極めていた」ということである。これまで説明してきた「高く広い視点で時代が要請するものを見極めていた」というのもその1つだろうし、ドラッカーが渋沢を評価したのも、渋沢の基本的な考え方や鋭い洞察力だった。
 さらに、渋沢が500社もの会社を設立できたのも「本質を見極めていた」からに他ならない。彼は事業において極めて重要なのが「専門的経営者」であることを見極めていた。
 渋沢は彼の著書『青(せい)淵(えん)百話(ひゃくわ)』の中で、起業に関する重要な4つの注意事項を挙げているが、その1つが「事業が成立したとき、その経営者に適当な人物がいるかどうかを考えること」である。渋沢は彼が創業に携わったすべての企業の経営を行ったわけではない。渋沢は事業を起こす際に、事業が始まるはるかに前から経営者となる優秀な人材を探している。
 例えば、大阪紡績という事業を立ち上げる際には、津和野藩出身で当時ロンドン大学に留学していた山辺丈夫という人物に、渋沢自身が手紙を書き、経営者になるよう依頼している。だからこそ、500社もの会社を設立することができたのだ。
 一方ドラッカーは、社会生態学者として社会の本質を見極めることに天賦の才があり、社会の本質を見極めることを仕事としていた。ドラッカーはマネジメントの全体像とその本質を整理したことによって「マネジメントの父」と呼ばれるようになった。
 ドラッカーはマネジメントの全体像とその本質を整理しただけでなく、変化の本質、未来の本質、そしてその未来の本質から導き出される未来創造の本質についても整理してくれている(以下略)。

 この本は11月にも紹介しました。大河ドラマ「青天を衝け」を契機に、津本陽著『「渋沢栄一」、公益財団渋沢栄一記念財団著「渋沢栄一公式テキスト」、渋沢秀雄著「父 渋沢栄一」と読んでから、この本にもどりました。ドラッカーは人間の幸せそして“理念と利益”、渋沢栄一は天下国家そして“論語と算盤”、多くの共通点があります。会計人として中小企業のためになる仕事をしたい、しかし残り時間が…と言い訳を考えていましたが、健康を維持しもう少し頑張ることにしました。本のまえがき(P3)に「新型コロナの発生は大きな危機であると同時に、知恵次第では、これまでの業界構造が一変するといったことが起こるかもしれない大きなチャンスである」とあります。戦いはこれから、負け犬のまま人生を終わるな!と勇気づけられました。