今日の1ページ

「社員第一、顧客第二主義 ―サウスウエスト航空の奇跡―」伊集院 憲弘 著

毎日新聞社発行 1999年1月30日第2刷

(P103)
 この“社員第一、顧客第二”というスローガンは決して“お客様はどうでもいい、大切なのは社員なんだ”という意味ではないことをはっきりしている。
 社員が、心からお客様第一に徹してくれるには、まず、社員全員が“自分たちは会社から大切に取り扱われている”という実感を持てるように努めるというのが、ケレハー社長以下の経営の姿勢であることを具体的に表しているのだ。
 ケレハー社長は、口に出したことは必ず守り、実行する人だということは社員誰もが知っている。ケレハー社長の“社員第一、顧客第二主義”を自らが実践している例として次のようなことが挙げられる。
 サウスウエスト航空の型破りなサービスに対して、全ての利用客が歓迎しているわけではない。乗客の中には、いろいろと難癖をつけてくる人も当然いる。ある日、一人の利用客のクレームレター(苦情の手紙)がケレハー社長のところにまわってきた。苦情の内容は“客室乗務員のサービスぶりについて少しばかりおふざけが度を越しているのではないか”というものであった。
 この手紙に目を通したケレハー社長は自らペンをとり、次のような返事を書き、サインしてその手紙の送り主に送ったという。
 「私どもは、客室常務員に対してユーモアのセンスを持って、みずからも楽しみながらサービスをするように言っております。もし、あなたが私たちの乗務員のサービスがお気に召さなければ、どうぞ次回からは別の航空会社をご利用ください。私どもは今のやり方を変えるつもりは毛頭ございませんので、さようなら」。CEO(最高責任者)で会長兼務社長がここまでやる企業が他にあるだろうか?
 “社員第一”が実は“顧客第一”と表裏一体であることは、サウスウエスト航空のひとりひとりの社員が十分に理解しているのである。
逆にケレハー社長以下のマネジメントたちは、そのことがわかっているので、社員たちのおふざけがあくまでユーモアセンスを活用した許容範囲内であるということを重々承知し、信頼しているのであろう。

 サウスウエスト航空は、アメリカテキサス州ダラス市を根拠地としている格安航空会社。運航開始までの法定での争い、運航開始後のライバルとの闘いを経て、格安航空会社の雛形になっています。家族的な社風と独特の企業文化でも有名です。今日の1ページは、ビジョンを現実にするには、ビジョン実現のプロセスが最も大事。その鍵はこの1ページにあると気づきました。対応を間違えると、顧客のクレーム(わがまま)を重視し、ビジョン実行の風土を自らこわしてしまうことになります。