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『戦略マップ』ロバート・S・キャプラン/デビット・P・ノートン著 監訳櫻井道晴・伊藤和憲・長谷川憲一

ランダムハウス講談社2005年12月14日第1刷発行

(P13)はじめに
 バランス・スコアカード(BSC)を実行している経営者は直感的に、戦略にもとづいた測定システムが戦略をどのように伝達し実行すべきかという課題を解決できることを理解していた。BSCを用いている経営者を観察すれば、彼らが戦略を管理するための新たなシステムを構築していることがわかる。
(6行略)
 
 さらに次の4年間、これらのBSC採用企業の業績と、我々がBSC導入を支援した企業及び独力でBSCを導入した企業の業績を追跡した。ここから、これらの企業は、比較的短期間……BSCプロジェクトとその組織変革を始めて2、3年……で飛躍的なパフォーマンスの改善を達成したことがわかった。驚くべき変革をなし遂げた経営者にBSCの役割について尋ねたとき、BSCは2つの単語、すなわち戦略への方向付け(alignment)と集中(focus)にあると彼らはおしなべて答えた。戦略実行に高度に集中するために、組織資源、すなわちエグゼクティブ・チーム、ビジネス・ユニット、支援グループ、IT、雇用と訓練のすべてを戦略に方向づけることをBSCは可能にしてきた。
(5行略)

 この著書では、BSCに成功した企業が「戦略志向」になるために次の5つのマネジメント原則にどのように従っているかを示した。
・戦略を現場の言葉に落とし込むこと
・企業を戦略に方向づけること
・戦略をすべての人の毎日の仕事にすること
・戦略を継続的プロセスにすること
・経営幹部がリーダとなって変革を活性化すること

 われわれは戦略志向になるためのマネジメント原則について学んだだけでなく、経営幹部と従業員にとって非常に重要な測定の仕方についても学ぶことができた。

 この本を監訳された櫻井先生からサインをいただいたのが平成19年10月30日。5つのマネジメント原則が仕組みになっているBSCは中小企業経営に役立つと考え、BSCを追い続けてきました。戦略への方向付けをするツール「戦略ナビcloud」は、京都大学上級経営会計専門家(EMBA)プログラムで、9月の講義(コンサルティングと会計)に使い、完成度が高い仕組みという評価をいただきました。
 集中は実行。なぜ普及がすすまないのか、『戦略マップ』を読み直し、5つのマネジメント原則の実行を習慣にできない「壁」が最大の要因と改めてわかりました。これまでの延長では事業を継続できない、会計事務所として新たな事業領域を創り事業承継を進めたいと考え取り組んで来ました。戦略ナビ導入の効果は導入事例で証明できました。「戦略への方向づけと集中」が持続力を維持する「鍵」です。

「ザ・ビジョン」ケン・ブラチャード&ジェシー・ストナー 著

ダイヤモンド社2004年1月8日発行

(P29)「ビジョン」とは何か
 木曜日の朝も、ジムと私は「二人の専用テーブル」でコーヒーを飲んでいた。「私のメッセージに対するきみの質問に考えていたんだが、確かに、メールメッセージには、ある意味のインパクトがあった。でも昨日も言ったように、私が望むような、もっと大きな変化は起きていない気がする。
父の時代は、会社全体が「全速前進!」だった。全員が、何を、何のためにやっているのか、きちんと意識していた。何があろうと、決してひるまなかった。自分たちは、社会に貢献する企業を動かしているのだと信じていた。まるで家族のように喜びを分かち合い、助け合っていた。父の影響力は大変なものだった。父のそばにいると、自分は誰かの役に立っていると確信できた。あのころは、会社全体に喜びがあふれていた。私はそれを再現しようとしたが、同じようにできなかった。時代が違うし、父の時代にうまくいった方法が、必ずしも今うまくいくわけじゃないんだ」
当時は全てが「全速前進!」だったというジムの言葉が妙に気になった。『全速前進!』ってどういう意味」と私は尋ねた。
「これはな、蒸気船が走っていた時代の言葉なんだ。エンジンを全開にして、全速力で進んでいるということさ」
「確かに戦争でも使われる言葉じゃなかったかしら?「機雷なんかくそくらえ、全速前進」っていうふうに」
ジムはにっこり笑った。「そこまで言われたら、だまっているわけにはいかないね。こう見えても歴史マニアなんだ。この言葉は、南北戦争の時に海軍のファラガット将軍が言った言葉だ。君の言うとおり、たとえ機雷がしかけてあろうが「機雷なんてくそくらえ」と言って対局を拒んだのがさ、それにしてもどうしてそんなことを思い出したの?」
「『全速前進!』という言葉に、向う見ずに危険に飛び込んでいくというニュアンスがあるのじゃないかと思って」
「いや、その反対だ、むしろはっきりした目的を持ち、その実現に一生懸命取組、きっと実現できると信じる……つまり「ビジョン」を持つことによってどんな障害があろうと断固として前進していくという意味だよ」
ジムは一瞬間をおいてから言った。「それこそまさに、父のやっていたことだ」

 先日、ある会社の経営計画をみせていただいたら、ビジョンに「一人で100歩より100人の1歩の会社になる」という言葉がありました。ビジョン実現のため、環境変化に対応し新たな取組をするにあたり、先行して仕組みをつくり、「この方法で大丈夫、一緒にやろう!」とトライしてきたのですが、順番が間違っていたことに気づきました。久々にこの本を再読、「前進」の仕方について考えました。

「儲かる会社の方程式MQ会計×TOCで会社が劇的に変わる」相馬 裕晃 著  監修 西 順一郎

ダイヤモンド社発行 2019年8月21日

(P103)
 MQ会計とは、付加価値を重視した経営の指標であり、TOCは、付加価値を増やすための具体的な思考方法なのです。
 MQ会計でボトルネックになっている要素(売価、販売数量、変動費、固定費、在庫)を特定して、TOCの考え方を使って、そのボトルネックが解消され、企業の業績が劇的に改善していくという仕組みです。
 本書の舞台となっている千葉精密は架空の会社ですが、本文中のストーリーはすべて筆者のMQ会計×TOCを活用したコンサルティングの実体験をもとに創作したものです。
 実際に、製造業だけでなく、建設業、小売業、卸売業、飲食業、運輸業等、業種を問わず、企業規模も売上規模2億円の中小企業から4兆円を越す大企業まで、多くのクライアントがこれにより業績を向上させる仕組みができています。
 MQ会計×TOCの効果は実証済みです。MQ会計とTOCの2つが揃うことで、会社経営の車の両輪として相乗効果を発揮し、業績が向上していくのです。
 つまり、MQ会計×TOCi =「儲かる会社の方程式」ということができます。
 MQ会計×TOCという手法を学ぶことで、皆さんが現場のリーダーやイノベーターとして、業務改善や経営改革をリードしていただくことを願ってやみません。
 また、マネジメントゲームやTOCセミナーを受講した経験がある読者にとっては、本書によって、MQ会計やTOCの理解をより一層深められるでしょう。

 「あとがき」の一部だけの紹介です。本の内容は「経営者失格」の烙印を押された27歳の女性社長が、会計とTOCを学んで1年で黒字化に挑むストーリーで書いてあるので、読みやすく一気に読んでしまいました。読み終わって、ビジネスの共通言語は「会計」であること、制度会計には不都合な真実(見せかけの利益)があること、コストを下げることは、必ずしも利益やキャッシュを増やすことには繋がりません(P129)にある「原因」と「結果」の追求例…等、目からウロコの連続でした。これまでBSCの仕組みを戦略ナビcloudにしてきた取組を論文にする必要があり、やってきたことをまとめ終えた、いいタイミングでこの本に出合うことができました。MQ会計+TOC+BSC=「儲かる経営」がこれからのテーマになりました。


iTOCは、業績を阻害している原因(ボトルネック)を集中的に改善することによって、業績を「劇的に改善することのできる経営理論」です。(本のP292に記載)

「無印良品は仕組みが9割」良品計画会長 松井 忠三 著

角川書店発行 2013年8月30日3版発行

(P2)
■なぜ今「仕組み」を公開するのか
 私はいま、無印良品を運営する良品計画の会長を務めています。そんな私が、あえて無印良品に秘密を公開して、仕組みの大切さを説く理由は大きく二つあります。

 一つは、やや大げさな言い方になりますが、日本の経済を元気にするために、一緒に頑張っていきたいという思いがあるからです。
 いまの日本には、経済状況が厳しいなかでも、努力に努力を重ねているビジネス・パーソンがたくさんいます。しかし、そのような「努力」が、正しく「成果」に結びついていないケースが多いように感じています。
 ではどうすればいいのか、
 そのヒントが「かつて不振にあえいだ無印良品」にあると思ったのです。

 おかげさまで無印良品は、国民的ブランドとして成長しました。今では海外でも「MUJI」と呼ばれ、日本初のブランドとして知れ渡っています。
 しかし、かつては業績が悪化し、「無印良品はもう終わりじゃないか」と業界内で囁かれていた時期がありました。私は、そのような“谷底に落ちていた時期”に社長に就任しています。
 そこで最初に取組んだのは、賃金カットでもなく、リストラでもなく、事業の縮小でもなく、仕組みづくりでした。
 簡単に言うと、それは「努力を成果に結びつける仕組み」「経験と勘を蓄積する仕組み」「ムダを徹底的に省く仕組み」。これが、無印良品の復活の原動力になったのです。
 仕組みとは、組織の根幹にあたるものです。これがしっかり築けていないと、いくらリストラをしたところで、不振の根本原因は取り除けず、企業は衰退します。
 何事も「基本」がなければ「応用」がないのと同じように。「会社の仕組み」がなければ、そこから「知恵」も、ひいては「売上げ」も生まれません。
 逆に、
 ・シンプルに仕事ができる仕組みがあれば、ムダな作業がなくなります。
 ・情報を共有する仕組みがあれば、仕事にスピードが生まれます。
 ・経験と勘を蓄積する仕組みがあれば、人材を流動的に活用できます。
 ・残業が許されない仕組みがあれば、自然と生産性が上がります。
 このような無印良品の「仕組み」はあらゆる業務に及んでいます。
 神は細部に宿る……これは、ドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残したと言われる有名な言葉です。
 この言葉の意味についてはさまざまな解釈がありますが、ディテールにこだわることが作品の本質を決める、という意味ではないかと私は考えています。企業の力を決定づけるのも、やはりディテールであり、それが仕組みなのです。

 この本は、発行されたときに買い、内容をもとに「戦略マップ」をつくりました。本の最後P221に書いてあることば、「リーダーは自分が率先して、頑張ってするのがすべてではないはずです。部下が率先して行動するような仕組みづくり、部下の意識を変えていくのがリーダーに課せられた使命です」をみて、どっきり!この本を読み直し、当時作った「戦略マップ」を確認し、わが社の習慣化している業務をみなおすことにしました。

「バランスト・スコアカード実践ワークブック」中野 明 著

秀和システム発行 2019年4月15日第1版第1刷発行

(P8)
バランスト・スコアカードの基本的な意味
□短期指標編重からの脱却
 バランスト・スコアカード(BSC)は、ハーバード・ビジネス・スクール教授ロバート・S・キャプランとコンサルティング会社社長デビッド・P・ノートンが、1990年に研究プロジェクトの報告書としてとりまとめたものに端を発します。
 従来の企業の指標は、どちらかというと短期的な財務の視点に偏りがちでした。この点に着目したキャプランとノートンは、財務の視点に、非財務的な長期的視点として、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点を加えました。そして、この4つの視点で組織の活動を総合的に評価しようとしました。これがバランスト・スコアカードの始まりです。つまり、バランスト・スコアカードは組織の評価をするシステムとしてそのスタートを切ったわけです。
□戦略と実行のギャップを是正
 バランスト・スコアカードには、財務、顧客、内部プロセス、学習と成長という4つの視点をトップダウンで考察するという特徴があります。高い財務成績を実現するためにはどの顧客に焦点を合わせ、その顧客を満足させるにはどの内部プロセスに焦点を合わせ、そのためには従業員にどのような学習をほどこすべきか、という具合です。
 つまり、組織の財務目標が、バランスト・スコアカードによってブレイクダウンされ、組織の末端の活動まで行きわたるような構造になっています。一方、従来の組織では、経営トップが高らかに経営戦略を宣言するものの、それが組織の隅々までには行きわたらないというジレンマがありました。これは組織の具体的活動が、その戦略とそぐわないという問題を引き起こします。

 これまで、バランス・スコアカードについての説明がわかりやすいので、2009年12月8日発行の「バランス・スコアカード実践ワークブック」を活用していました。同書籍はすでに発行されていないので、代わりの本を探していたら、この本がみつかりました。「バランスト・スコアカード」という名称に変わっています。最初は「バランス・スコアカード」で2001年に「戦略マップ」が発表されてから「バランスト・スコアカード」に名称が変わりました。経営支援業務に活用し、「現場」を知っている私には独自の理屈があるのですが(汗、基本的な仕組みを理解するための入門書としてこの本をおすすめします。

「ドラッカー入門」上田 惇生 著

ダイヤモンド社発行 2010年4月1日第6刷発行

(P114)
バランスト・スコアカードのルーツ
 マネジメントの役割として、本業、人、社会的責任を言うだけでは、それこそ言うだけに終わり、成果をあげる経営とはならない。そこで必要となるのが、具体的目標である。
 ドラッカーは、7つの領域、あるいは8つの領域で目標を設定せよという。目標は複数である。複数だからバランスさせなければならない。企業活動に唯一絶対のものがあるとするから間違う。しかも、それが利益だとするから大きく間違う。これが、経営手法としてのバランスト・スコアカードのルーツとなったコンセプトである。
 目標を設定すべきは、第一にマーケティング、第二にイノベーション、第三に生産性。第四に人材、第五に物的資源、第六に資金、第七に社会的責任である。そして「条件」としての利益である。
 重要なことは、利益を条件として位置付けていることである。利益は目標ではない。条件である。明日さらによい事業を行うための条件である。したがって、マネジメントには7つの目標と1つの条件があるといったほうが適切である。
 これらの目標と条件をバランスさせて達成しなければならない。だから、バランスト・スコアカードと呼ぶ。何をバランスさせるかというと、財務、顧客、業務、イノベーション。すなわち、過去、外部、内部、将来である。
 それでは、それらのものを総称して何と呼ぶか。ドラッカーはこれを「富の創出能力」と名づける。企業の目標とすべきは、利益ではなくこの富の創出能力の最大化である。そして、その能力の十分な発揮である。
 企業の目標を富の創出能力の最大化とし、その内訳を複数の領域のそれぞれに複数の目標を設定させる等と言うことは、まさにモダンを内包するポストモダンの手法と言うべきである。もちろん、その大本の富の創出の増大とは、あくまでも世のため人のためのものである。

 ドラッカーの本との出会いは、2007年、研修で講師の宮本嘉興先生(公認会計士)から宿題としてだされた「抄訳マネジメント」(上田惇生訳 ダイヤモンド社発行1993年5月26日第37版)でした。この本の「おわりに」P189を読んで驚きました。上田惇生氏が経団連に就職し、翻訳チームに入ってドラッカーのマネジメントを翻訳した後、ドラッカーに直接交渉し「英語で薄くしたもの」が「抄訳マネジメント」と書いてありました。この本を読むと、ドラッカーの「世界」の背景が良くわかります。バランスト・スコアカードもドラッカーがルーツです。

「最強の世界史」神野 正史 著

PHP文庫 2018年10月15日 第1版 第1刷

(P138)
戦略と戦術の混同
 戦略と戦術は全く似て非なるもので、これを明確にした上で努力しなければ努力が分散されてしまい、目的を達成することは叶いません。
 しかし、この「戦略と戦術」はあまりよく理解されていません。
 簡単に解説すればこうなります。
 【戦略】最終目的を達成するための大まかな計画方針
 【作戦】戦略を成功に導くための個別的・具体的計画
 【戦術】作戦を成功に導くための現場での手段・方術
 これを会社経営で喩えると
 【戦略】幹部会議で経営方針が決められ
 【作戦】その経営方針に基づいて、プロジェクトが立ち上げられ
 【戦術】プロジェクトを達成するために現場が臨機応変に対応する
といった感じになります。
 先の受験生の例に当てはめると、「模試ではいつも高得点(戦術の勝利)だったけど本番で落ちた(戦略の失敗)」とうイメージです。
 戦術でどれだけ勝利を重ねようとも、戦略で失敗したのでは何の意味もありません。逆にどれだけ失敗を重ねようとも、最終的に戦略を損なうことがなければ問題ありません。つまり、事において、常に「戦略」を見据えながら、「戦術」を行使していかなければ、「成功」は覚束ないのです。本章では、そうした戦略と戦術の成功例と失敗例を紐解いていくことにいたします。

 本では、分裂状態のドイツを統一国家に導いたビスマルクのことが書いてありますが、私は上記の1ぺージから戦略と戦術の間にある作戦は「重要成功要因」であり、会社経営に喩えた説明から、戦略にもとづく戦術を実行するための「仕組み」が必要であることを学びました。バランススコアカード(BSC)で戦略マップができ、戦術に相当する「KPI」、遅行指標(結果指標)と先行指標(行動を管理する進捗指標)が適切に設定されたとしても、プロジェクトが立ち上げられ、現場が行動しなければ、戦術は実行されない、結果として戦略目標は実現できないことになります。戦略マップを作ってPDCAをまわすこと(モニタリング)を実行すれば目標の達成度は上がるのですが、戦略と戦術の間には作戦=プロジェクトが必要です。

「目標管理の教科書」五十嵐 英憲 著

ダイヤモンド社 2012年5月31日第1刷発行

(P80)
■目標づくりで知っておきたいこと
 ここまで、「目標テーマのピックアップ→達成基準や達成手段を考える」というプロセスを職場目標と個々人目標とのキャッチボールという方法で、リーダーとメンバーみんなでワイワイガヤガヤ話しあいながら展開するという話をしてきた。
 その際の着眼点や留意点を色々と述べたが、もう一つ重要な点が残っている。定性目標の具体化に関することである。
■定性目標は具体化を!
 「夢と働きがいのある職場づくり」、「改善活動提案の徹底」、「コンサルティング営業の推進」、「人事評価システムの構築」等、つかみどころのない雲のような目標が設定されることがある。いずれも、目標もどきのスローガンであり、決して目標と呼べるものではない。
 どうして、そのような事態がおきるのか。それは定性目標の特性のためだ。
 売上高や利益率のように、数値表現できる定量目標とは違い、定性目標は数値化できないものである。そのために、どうしても抽象的な表現になりやすい。
 それを防ぐために、ほとんどの企業の目標管理マニュアルには、「目標はできる限り数値化する事」と記してある。しかし、それは極めて誤解を招きやすい表現だ。
 正しくは、定量目標は「必ず数値化すること」であり、定性目標は「進捗管理や評価に耐えうるように“具体化”すること」でなければならない。
 では、定性目標をどのように具体化するのか、以下の3つの方法が有効である。
■固有名詞を使ってイキイキと記述する
 定性目標の具体化の鉄則は、いきなりの数値目標は避けることである。まず、状態記述を試みる。何が、どのような状態になっていれば、目標達成なのかという、当事者の思いをできる限り具体的にイキイキと記述しようとするものだ。
 たとえば、明るい職場にしたいという当事者の思いを、「毎朝、みんなが笑顔で挨拶している」、「呼ばれたら、感じよく“ハイ”と返事をしている」、「お互いに認め合い、励ましあっている」というように、具体的な状態で表現する。
 こうすると、結果の判定も「◎○△×」の4段階くらいで可能になる。その際に、固有名詞を用いれば、記述場面が限定され、その分だけ進捗管理や評価の精度も高くなる。これが状態記述の基本である。
■数値化可能な代用項目を探し出す
 ➀の状態記述だけでは不安が残る。そのような場合には「代用数値化」も試みる。定性目標の本質に近い数値化可能な“代用項目”を探し出し、それを目標の達成基準として使用する、という方法である。この方法を用いれば、ほとんどの定性目標の数値化が可能になるが、注意すべき点が2つある。
 1つは、目標と因果や相関関係が認められる代用項目を用いること、それを無視すると、「特許の質を高める」という目標を「特許〇件以上」で代用するという類の過ちをおかしてしまう。典型的な質と量との混同、もしくはすりかえである。
 2つは、代用数値が目標の本質からずれないように、複数の、かつ、多面的な代用項目を用意すること。
 たとえば、「接客サービスの向上」という代用項目に、「売上の伸び率」を用意する。よく見られるケースであるが、果たしてそれで十分なのだろうか。
 確かに、接客サービスが向上すれば売上が伸長するという経験則が存在し、それに照らせば成立する図式である。しかし、売上の伸び率は、サービスの向上を証明する1つの要素に過ぎずそれをもって、全てを代替使用とするのは乱暴な話である。「再来店客数の増加数」など、いくつかに代用項目の追加が必要だ。そうしなければ、本来の目標の意味合いを薄めたり、ゆがめてしまう。
■代用項目と状態記述とを組合わす
 ところが、実際に多面的な代用項目を探してみると、そう簡単に代用数値が見つからない。では、どうするか。そのときには、前述の状態記述との組み合わせ使用を試みる。
 まず、実現したい状態を、「全販売員が両手を添えて、お客様に商品を渡している」という具合に書きだし、それに「売上の伸び率」や「再来店の増加数」とをセットにして、トータルで定性目標を具体化する。それが、経験的には一番有効な方法である。

 またまた「目標管理の教科書」です。いつも悩んでいる「定性目標」の設定がでてきたので、引用がついつい長くなってしまいました。BSC(バランススコアカード)では、遅行指標と先行指標という区分があります。私は、遅行指標=結果として達成すべき数値→定量目標、先行指標=結果を出すために行動すべき基準→定性目標と理解しています。
 目標設定のとき、数値で表すことが困難な定性的なことの定義と基準は重要です。その行動は結果につながるのか!この本では、定性目標は「進捗管理や評価に耐えうるように“具体化”すること」でなければならない。と定義づけています。

「目標管理の教科書」五十嵐 英憲 著

ダイヤモンド社 2012年5月31日第1刷発行

(P56 ステップ➃)
職場の今期の貢献領域一覧表を作成する
□職場ですべきことを全て洗い出す!
 ステップ➃では、部門の年度目標にたいしてこの職場が貢献すべきことは何なのか?職場ミッションと絡めて考える。次ページのような「職場の貢献領域一覧表」を用意してワイワイガヤガヤやりながら、記入していくといい。
〇戦略業務
 まず、「戦略業務の洗い出し」である。それは、部門の年度戦略目標との連動で、この職場が今期やるべき業務、あるいはやりたい業務の明確化だ。もちろん、中期経営計画をもとに考えた職場ミッションとの合致も必要である。
 例えば、「○○業界に狙いを定めた、新規顧客の獲得」という中期戦略に対応し、「アタック先キーパーソンとの信頼関係の構築」という部門の年度目標が設定されたとする。それを受けて、「顧客への問題解決サービスの提供」という職場ミッションを掲げるこの職場では、「新製品説明会等を企画して、A社キーパーソンの日常業務のわが社に関する関心を喚起する」という具体的な戦略業務に落とし込み、それを職場のやるべき仕事とするのである。
 このような仕事は、将来に関する種まきであり、今年の売上や利益の増減にはほとんど影響を及ぼさない。しかし、中期的な観点では、極めて重要な仕事である。今、地道にコツコツと種をまくから、3年後に刈り取れる。種まきを怠れば、餓死に近い状態が待っている。そういう性格をもった業務であり、決して疎かにできない重要な仕事である。
〇日銭業務
 戦略業務に対して、「部門の日銭業務」はもっと生々しく、現実的である。
 株主や銀行と約束した売上屋利益目標の達成が部門経営には重くのしかかり、その必達要請が現場には飛んでくる。
 製造部門には「コストダウン目標」が、営業部門には「売上目標」が、いやおうなしに天から降ってくる。また、間接部門には、法律改正に伴う「環境変化に対する応急措置」が緊急業務として課されることもまれではない。
 いずれも、職場ミッションに照らせば、この職場の仕事であり、拒否が許されない「必達業務」である。手抜きをすれば、たちまち会社がピンチに立たされる。商法で定められた決算にも支障をきたす。部門の日銭目標と連動した職場の日銭業務も、戦略業務と並ぶ、重要な「日常業務の役割責任業務」なのである。

 前回に続き「目標管理の教科書」です。この本は、MBO-S(目標管理のセルフコントロール)をテーマにしています。戦略マップをBSCで作成し、戦略の実行にフォーカスしてきたので、「戦略業務」と「日銭業務」という区分が新鮮でした。戦略マップで実行する戦略目標とKPIには「戦略業務」と「日銭業務」が混在しています。KPI設定が難しいと感じる理由はここにもあることに気づきました。

「目標管理の教科書」五十嵐 英憲 著

ダイヤモンド社 2012年5月31日第1刷発行

(P46 ステップ②)
職場と個人のミッションをみんなで確認しょう
□職場のミッションを話し合う
 部門の中期経営計画(ビジョンと戦略)をメンバー全員が確認したら、次にリーダーが仕掛けるのは、「職場のミッションの明確化」の議論である。職場のミッションとは、中長期的に見た職場の役割と担う責任のことだ。
 向こう3~5年間を見渡して、この職場が貢献すべき対象は、いったい「何」なのか、あるいは「どこ」なのか、貢献対象を固有名詞に近い状態で把握して、その貢献対象に中長期にわたって「提供すべき職場の仕事」を、部門の中期経営計画と絡めて生き生きと導き出すこと。
 これが職場ミッションの明確化のストーリーであり、それに則って、リーダーとメンバーが真剣な議論を展開すれば、お互いの想いのこもった職場の根本的な役割の共有化が可能になる。また、役割の実践意欲も刺激されるだろう。
□絶対に外せない顧客への貢献
 職場ミッションについて話し合う際に、絶対外せない貢献対象が2つある。
「お客様」と「適正利益の確保」である。基本的に、どんな職場も、何らかの形で両者に貢献することが求められているからである。
 とりわけ、お客様への貢献は重要だ。お客様が商品を買ってくれなければ、何も始まらない。究極的に会社を支えているのはお客様なのである。
 それを忘れずに、全職場が顧客への貢献を意識する事。それが職場ミッションである。

 この本を読むのは何度目だったか忘れました。表紙には「ノルマ主義に陥らないMBOの正しいやり方」というサブタイトルがあります。今回は「職場ミッション」という言葉が気になり読み直しました。私は、経営の基本要素として、ミッション、ビジョン、ドメインを考え中期経営計画を作成することを進めてきました。先日、幹部合宿で中期経営計画(ビジョンと戦略)を話し合ったのですが、戦略を実行する過程で目標管理は必須であり、その目標管理を「ノルマ管理」にしないために「職場のミッション」さらには「リーダーのミッション」「個人のミッション」が必要ということが良くわかりました。web軍師のスコアカードの赤と黄色を緑にするための「鍵」がここにもありました。この本は何度も読み直します。